MENUS連載小説【第2話】夏バテにご用心!弱った心と体に優しく染みる「梅雑炊」

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メニューズ編集部
時々、無性に食べたくなる料理ありませんか?

口にすると、体中に力がみなぎり、心が満たされるような。
そして、ほっと安心するような。

あなたのことを思って作られた、世界でたったひとつの母の味。

母から娘へ タフな女の夏メニュー【第2話】

倒れてからどのくらいたったのだろうか。ハッと目が覚めて時計を見ると、針は夜の10時をさしていた。2時間ほど寝ていたようだ。

先輩に連絡しなきゃ!

朦朧としながらもスマホを手に取る。すると、先輩から少し前にメッセージがきていた。

「明日のケータリングは松田くんの知り合いに頼んだから大丈夫!」

あぁ、よかった。心の底から安堵した。

先輩へ謝罪のメッセージを送る。この時間に電話は非常識だ。後日、改めて謝ろう。

結奈は汗で濡れたTシャツを脱いでパジャマに着替え、水を飲んだ後、ベッドに入り再び目を閉じた。

明日は予定のない日曜日。明日はしっかり寝て、絶対に治さないと!

次に目覚めたのは朝の10時だった。

まるまる12時間、一度も起きずに泥のように眠ったことで脳がデトックスされたようだ。頭がすっきりし、身体も軽い。

元気になったら急にお腹が減ってきた。昨晩作った夏野菜のラタトゥイユもいいけど、病み上がりにはやっぱりアレ!

いつもお母さんが作ってくれていた梅雑炊

作り方はいたってシンプル。白だしとほぐした梅干しで雑炊を作り、その上に細切りにしたしその葉と海苔、白ごまをのせるだけ。
梅と白ごまの香りが食欲をそそるんだよね〜。れんげですくって一口。さっぱりと小味。爽やかな梅の酸味が口いっぱいに広がった。

そうそう、この味、この味だ。結奈が風邪をひいた時には必ず母親が作ってくれた。

無心で食べていると、鼻の奥がツンとして視界がにじんできた。
あれ? 気がつくと、結奈は泣いていた。

そして涙はとめどなく流れ、ついにはヒックヒックとしゃくりあげるほど泣いてしまった。

身体が弱ったことで弱気になったのか。いや、心が弱っていたから身体が悲鳴をあげたのか。

はじめての一人暮らし、憧れの仕事。心地よい緊張と刺激で、毎日が楽しかった。だけど、孤独の中で「頑張らなきゃ!」と気張っていたのは否めない。

結奈は思い切り泣いた後、冷たい水で顔を洗うと、鏡の中で笑顔を作る。

「明日からまた頑張るぞ!」

不安や寂しさなど後ろ向きの要素はすべて、涙と一緒に流れていったようだ。
翌日の月曜日、迷惑をかけた先輩と編集長に自分のミスを報告し謝罪した。

結奈の指導社員でもある先輩は「今度やったら読者スナップ100人担当ね!」と恐ろしいことを言いながらも笑って許してくれた。

そして編集長は意外にも「あ、そう。今度から気をつけて」とサラリと言っただけだった。

拍子抜けした結奈のポカンとした顔がおかしかったのか、編集長はくすりと笑って言う。

「仕事は楽しい?」

「え? た、たのしいです」。質問に、どぎまぎしながら答えた。

「じゃあ、良かった。自分が楽しくないと、楽しい誌面は作れないから」

それだけ言うと、ハイヒールの音を響かせて、颯爽と仕事に戻って行った。

編集業界では、切れ者で有名な名物編集長。美人でおしゃれで、母親と同世代のアラフィフとは思えないほど若く見える。

その完璧さから近寄りがたいかというと、そうでもない。彼女の言葉の端々に、私たちを見守る視線に、結奈は温かさを感じていた。

そう、まるでお母さんみたいな。それを母性というのだろうか。

編集長の言葉に心打たれて立ち尽くしていると、いきなり肩を叩かれた。

見ると、同期の松田くん。「お前、俺には礼の一つもないのかよ」と、恨めしそうに言う。

「あ、ごめんごめん。そして、ありがとう。本当に助かったよ」実際、結奈は心から感謝していた。

「じゃあさ、お礼に一杯奢ってよ」

「もちろん!シンイーも誘うね」。中国人のシンイーは、同じく同期で、仲が良い。

「じゃあ俺も大学の友達誘うわ。実はそいつにケータリングを頼んだんだよ。料理好きが高じて起業したやつでさ。注文がない日は渋谷のコーヒー屋で働いてるんだけど、お店、結奈ちゃん家の近くじゃないかな」

「あの赤い看板の?」

「そうそう」

結奈の脳裏に、一昨日のウェイターのクシャっとした笑顔が浮かんだ。実はちょっとタイプだったりして。

「じゃあ、日時や場所はラインするね」そう言って別れた後、思わず口元が緩んでしまう。

今泣いたカラスがもう笑う。

我ながら単純だと思いながらも、結奈は新しい出会いに期待せずにはいられなかった。


(第3話は2019/8/13に公開予定!)

■ 今週のレシピ

夏バテにご用心!弱った心と体に優しく染みる梅雑炊

風邪をひいたときにいつも結奈のお母さんが作ってくれた梅雑炊。さっぱりとした爽やかな味わいなので、夏バテのときにもぴったりのレシピです。

暑い日が続いて疲れた時は、優しい味わいの梅雑炊でホッと一息ついてみませんか?
writer
吉岡美奈